細辛とカンアオイの変わり者たち
カンアオイの魅力を知ってネ!
細辛とカンアオイの変わり者たちの写真へ

カンアオイは個性満点の植物なので、一度のめりこむと抜け出せなくなってしまう魅力があります。
しかし個性がありすぎて初対面では地味・不気味と感じてしまうことが多く、とっつきにくい植物でもあります。
そんなハードルを乗り越えて、カンアオイの魅力を知り、この世界に足を一歩踏み入れたときに戸惑うことがあります。
それは「カンアオイ」、「サイシン」、「細辛」の違いです。すべては同じカンアオイの仲間なのですが、さて何が違うのでしょうか?


「カンアオイ」と「サイシン」と「細辛(さいしん)」って…
 カンアオイの仲間はたくさんあって、それぞれにいろいろな名前(和名)がついています。
 ○○カンアオイ、○○アオイ、○○サイシンと様々です。
 名前は人(ヒト)がつけるものなので、つける人の思惑・基準によって名前が変わります。
 さらには人によってはグループ分けまでも変わってきます。
 ですから例えば同じ植物であっても、人によっては「これは細辛だ!」「いやこれはカンアオイだよ!」というような
 意見の違いが起きたりもします。
 では、それぞれにどんな思惑があってこのように主張するのでしょうか?初心者には何のことやらサッパリ分からず
 混乱してしまいますよね。
 そんなややこしい「カンアオイの仲間」のお話をちょっとしてみましょう。


ミヤコアオイ オオフジノカンアオイ サカワサイシン 細辛「緒房亀甲」
ミヤコアオイ オオフジノカンアオイ サカワサイシン 細辛「緒房亀甲」

 ややこし〜い「カンアオイ」
 カンアオイの仲間とは分類学的にはウマノスズクサ科の植物のうちカンアオイ属を指します。
 カンアオイ(Asarum)属は研究者によっては細分され、フタバアオイ(Asarum)属、
 ウスバサイシン(Asiasarum)属、カンアオイ(Heterotropa)属、アメリカカンアオイ
 (Hexastylis)属、タカサゴサイシン(Geotaenium)属の5属に分けられます。
 細分しない場合、これら5つの属はそれぞれ「属」より格下の「節」とされます。
 
ややこしいことに広義のカンアオイ属(Asarum属)は細分されると、狭義のカンアオイ属は
 Heterotropa属になり、狭義のAsarum属はフタバアオイ属という和名で呼ばれるので混乱
 しないよう注意が必要です。
 
アメリカカンアオイ(Hexastylis)節をカンアオイ(Heterotropa)節に含めるという意見もあります。
 また、もっとも限定的に用いられる「カンアオイ」という名前は種名でのカンアオイ
 (Asarum nipponicum)で別名カントウカンアオイと呼ばれているものです。
 ですから「カンアオイ」という場合、細分していない広義のカンアオイ(Asarum)属全体を指す
 場合と、狭義のカンアオイ(Heterotropa)属=節だけを指す場合、さらには種名として
 カントウカンアオイだけを指している場合があるのです。
 本当にややこしいですね!
 当サイトでは「カンアオイの仲間」という場合、広義のカンアオイ(Asarum)属を指すことと
 します。

 ちなみにカンアオイの仲間はアオイ科(ムクゲやハイビスカスなど)ではありませんよ。
ウマノスズクサ
ウマノスズクサ

 ○○カンアオイと○○アオイと○○サイシン
 カンアオイの仲間の和名には名前の後ろに○○カンアオイ、○○アオイ、○○サイシンの
 3つのうちいずれかがついています。
 この名前の違いによって何か特徴が変わるのか?という疑問が当然出てきますよね。
 そこで名前をリストアップし比較してみたところ、
 ウスバサイシン(Asiasarum)節だけはすべて「○○サイシン」と名前がついているようですが、
 フタバアオイ(Asarum)節は「○○アオイ」と「○○サイシン」の両方が用いられていますし、
 カンアオイ(Heterotropa)節にいたっては「○○カンアオイ」が多いものの、「○○アオイ」も
 多く、「○○サイシン」も用いられています。
 落葉性のものには「○○カンアオイ」という名前がついていないので、「○○カンアオイ」と
 いう名前は常緑性のものだけに使用されているようです(カンアオイの名の由来も冬でも
 枯れない葵の意味)。
 ただしその逆は通用しないようで、「○○アオイ」と「○○サイシン」という名前は落葉種だけ
 でなく常緑種にも用いられています。
 しかし、他の点ではいろいろ見比べてみても名前によって明確な違いを見ることができません。
 どうやら特徴によって区別されているわけではなく理由もわかりません。
 カンアオイの仲間であるなら、○○アオイ、○○サイシンのどちらををつけてもよく、常緑種で
 あるなら○○カンアオイとつけてもいいのかもしれませんね。
フタバアオイ
フタバアオイ

 そもそも「細辛(さいしん)」とは?
 「細辛」という言葉は中国でケイリンサイシンやウスバサイシン(どちらもAsiasarum節)などを
 指し、「細辛」は薬用として用いられています。
 名前の由来は、根が細くて噛むとピリッとした辛味があることからついたようです。

 生薬「細辛」は全草または根・根茎を乾燥させたもので、咳止め、鎮痛、鎮静、解熱などを
 目的とした主に漢方処方に配合されています。
 ちなみに狭義のカンアオイ(Heterotropa節)の生薬名は「土細辛」です。
ウスバサイシン
ウスバサイシン

 ややこし〜い「細辛」
 漢名が細辛であることから、日本でも同じ仲間であるカンアオイ(Asarum)属の一部には
 ウスバサイシン、サカワサイシン、エクボサイシンなど、「○○サイシン」という和名が
 つけられています。
 ちなみにウスバサイシンの別名は単に「サイシン」ともいいます。
 また、もちろん日本でもケイリンサイシンやウスバサイシンなどを薬用として用いる場合も
 生薬名は「細辛」といいます。
 う〜っ ややこしい…
 ところが日本では「細辛」と呼ぶ、もう一つの場合があります。
サカワサイシン
サカワサイシン

 もう一つの「細辛」とは?
 ここで述べるもう一つの「細辛」とは日本の園芸界でのみ通用する呼び方です。
 それは狭義のカンアオイ(Heterotropa節)の園芸品種で、日本細辛連合会に登録されたものを
 指します(古典園芸の一つです)。
 登録される条件として葉柄が緑色(青軸)であることと、観賞に耐えうる葉を持つことであり、
 また新たに登録されるには既存の品種に似たものが無いということも条件になるでしょう。
 
例外として葉柄が緑色でなく褐色(泥軸)のものもわずかですが登録されています。
 ⇒注:2008年から登録が削除されました。
 ちなみにカンアオイ(Heterotropa節)の野生種のほとんどは泥軸で青軸のものは滅多に見つかり
 ません。ただしアマギカンアオイ・シイノミカンアオイなどは逆で、青軸が多くみられます。
細辛「日の出」
細辛「日の出」

 結論?
 ●「カンアオイの仲間」という場合、人によってその範囲が異なり、例えばフタバアオイやウスバサイシンなどを含める
  場合と含めない場合とがある。
 ●「カンアオイの仲間」の和名には ○○カンアオイ、○○アオイ、○○サイシンとつけられているが各々を区別する
  明確な違いは無い。ただし、落葉種には○○カンアオイと名づけられることはない。
 ●「さいしん」と呼ぶ場合、ウスバサイシンの別名として使用する場合と、サカワサイシンなどのようにカンアオイの
  仲間の一部に和名として「○○サイシン」と用いられている場合と、生薬として「細辛」と呼ぶ場合、さらに園芸品種の
  一群として「細辛」と呼ぶ場合があります。
 
●以上のことが分かると次のようなややこしい文章の意味が分かるはず!?
  
例文:園芸品種である細辛「谷間の雪」は「カンアオイ(別名カントウカンアオイ)」から選別されたものであり、
  「カンアオイ(別名カントウカンアオイ)」はカンアオイ(Asarum)属のカンアオイ(Heterotropa)節に分類
  されています。同じ仲間にはサカワサイシン、ミヤコアオイなど多数あります。
  また「カンアオイ(別名カントウカンアオイ)」は薬草でもあり生薬として用いる場合、ウスバサイシン(別名サイシン)を
  乾燥した生薬「細辛」とは区別して「土細辛」と呼ばれています。

  ねっ!ややこしいでしょ?



さてさて、ややこしいお話はここまでにして
とにかく「細辛とカンアオイの変わり者たち」を見てやってください。
ときにはシクラメンの葉っぱと間違われることもある可愛そうな奴らですが
なんのなんの勝るとも劣らない魅力を秘めています。
実物は写真よりもっと魅力的ですよっ!!

細辛とカンアオイの仲間の変わり者たち
名前が緑色のものは「細辛」です
「谷間の雪」 ←谷間の雪
  濃緑色の葉に灰緑色
  の谷
(※1)と蝶(※2)が
  入るのが特徴。
  萌黄色のヒゲ
(※3)も
  わずかに入ります。
「谷間の雪」の花 ←谷間の雪
  花は素心(※4)です。
  通常カンアオイの花は
  茶色っぽい色をして
  いますが、この花は
  色素が抜け薄黄緑色に
  なっています。ちなみに
  わずかに色素が残って
  いる場合は準素心と
  いいます。
「葵錦」 ←葵錦
  濃緑色の葉に灰緑色
  の亀甲
(※5)と
  太い谷
(※1)と
  蝶
(※2)が入ります。
「雪月花」 ←雪月花
  葉に灰緑色の玉(※6)と
  淡い下がり藤
(※7)が
  入ります。
  葉の周囲には薄い
  霰斑
(※8)が散ります。
「玉羅紗」 ←玉羅紗
  葉にゴマ斑(※9)が入り
  極薄い下がり藤
(※7)が
  あります。
「玉羅紗」の花 ←玉羅紗
  花は素心(※4)です。
「福姫」 ←福姫
  濃緑色の葉に灰緑色
  の谷
(※1)と蝶(※2)が
  入り下がり藤
(※7)と
  小さな斑紋が所々に
  散ります。

「村雨」 ←村雨
  濃緑色の葉に灰緑色
  の谷
(※1)と蝶(※2)と
  大小の斑紋が入り、
  斑紋はもっと派手に
  入ることもあります。

「伊勢摺墨」 ←伊勢摺墨
  濃緑色の黒々とした葉
  で葉脈はわずかに
  黄緑色になります。
「伊勢摺墨」の花 ←伊勢摺墨
  花は素心(※4)です。
「玉霰」 ←玉霰
  小型の丸い葉で、
  灰緑色の霰斑
(※8)が
  入ります。
  淡い下がり藤
(※7)が
  出ることもあります。
「天鈴殿」 ←天鈴殿
  葉に灰緑色の谷(※1)と
  玉
(※6)が入ります。
「緒房亀甲」 ←緒房亀甲
  丸い葉に亀甲(※5)が
  入ります。
「緒房亀甲」の葉の裏 ←緒房亀甲
  葉裏が赤紫褐色に
  染まるのが特徴です。
  (昼夜芸といいます)
「吉野」その1 ←吉野
  濃緑色の葉に灰緑色
  の谷
(※1)と大小の斑紋
  が散ります。
  斑紋は葉面のほとんど
  を覆うくらいに入ることも
  あります。
「吉野」その2 ←吉野
  左と同じ「吉野」ですが
  斑紋が大きく入った
  もの。
  年によって斑紋の変化
  が多く、葉面のほとんど
  が灰緑色になることも
  あります。
「モエギカンアオイ」 ←モエギカンアオイ
  ヒメカンアオイの
  素心
(※4)です。
  丸い葉に亀甲が入り
  ます。
「モエギカンアオイ」の花 ←モエギカンアオイ
  花は素心(※4)で
  明るい黄緑色。
「ウスバサイシン」素心 ←ウスバサイシン
  素心

  ウスバサイシンの
  素心
(※4)です。
「サカワサイシン」素心 ←サカワサイシン
  素心

  サカワサイシンの
  素心
(※4)です。
「オトメアオイ」斑入り ←オトメアオイ
  斑入り
「オトメアオイ」八重咲き花 ←オトメアオイ
  八重咲き花
「オニカンアオイ」斑入り ←オニカンアオイ
  斑入り
「ホシザキカンアオイ」準素心 ←ホシザキカンアオイ
  準素心
「ミヤコアオイ」斑入り ←ミヤコアオイ
  斑入り
「タイリンアオイ」斑入り ←タイリンアオイ
  斑入り
細辛の用語
※1 谷…葉中央の葉脈に入る一本線状の模様。
※2 蝶…葉の襟状になった部分に入る模様。
※3 ひげ…谷と蝶の間の葉脈に入る線状模様
※4 素心…元の花色から色素が抜けたもの。通常花色は白・クリーム・緑色になります。
        草体にある色素も抜けます。(緑色の色素は抜けません)
※5 亀甲…葉脈に沿って入る模様。
※6 玉…葉の中央に大きく入る丸型の模様。
※7 下がり藤…葉の主脈の両側に大きく入る「藤の花房」状に入る雲のような模様。
※8 霰斑…全面に入る細かい斑紋。より細かいものはゴマ斑。
※9 ゴマ斑…霰斑より細かい斑紋。

 カンアオイの仲間の栽培について
 明るめの日陰に置き、年中水切れしないように管理します。多くは春に新葉が展開してくるのでこの頃に、より明るい
 ところで管理すると葉柄が伸びず株姿が良くなります。花を楽しみたいのであれば葉柄が短いと観賞しにくいので、
 新葉展開時は少し暗くすると葉柄が伸びて花が見やすくなります。年中植え替えができますが春と秋が無難です。
 植え付け用土は鹿沼土か赤玉土の単用あるいはそれらの混合用土等でよく育ちます。根が下に伸びるので深めの鉢が
 良いでしょう。作りこむと新芽の位置が高くなって地表に出てしまうので2・3年に一度は植え替えましょう。
 冬期も屋外で管理できますが霜や乾風には当てないようにしましょう。南西諸島産であっても多くは耐寒性があるので
 寒冷地でなければ屋外で管理できます(もちろん保護してあげるほうが安心です)。
 増殖は植え替え時に株分け・根茎伏せ、実生もできます。


 じつは… もっとも〜っとややこしいカンアオイ

 カンアオイの仲間は原種の数が多いのでコレクション性があって栽培するにしても研究するにしても奥が深くてとても
 楽しい分野だと思います。
 しかしカンアオイの仲間はよほど特徴のある種(しゅ)をのぞいては葉など草姿にはほとんど違いが無く、花もよく似て
 いて花の構造の些細な違いや花期、自生地などによって区別され種名がつけられているにすぎません。

 しかも、典型的な種の特徴を持ったもの同士なら区別は容易いのですが、困ったことに中間タイプが存在していたり、
 また同一種内でも変異幅が広くて「別種では?」と思ってしまうものも見受けられるなど「同一種である」という範囲を
 決めることが難しいものもあります。
 したがって、たとえ種を同定する情報があったとしてもそれはあくまで典型的な特徴を持つ個体を同定するときにのみ通用
 することであって、全てを同定する決め手にはならないということでもあります。
 
 これらを整理するためなのか、カンアオイの仲間は過剰なほどに細分されていて、名札が落ちたら区別が困難になるくらい
 のほんの僅かな違いであっても、仮称がつけられているものがたくさん存在しています。
 
(例えば姿形は全く同じであっても花期が異なる[例えば春咲きと秋咲きの]場合は、花粉の交換ができず遺伝子の交流が起きていないので
  全く同一の種とするには無理が
あるとして別称がつけられたりします)

 いずれ研究が進むと、これら仮称がつけられたものの中から種や変種などに格上げされるものが出てくるのかも
 しれません。また現在、種や変種などとされているものも再検討され統合・分離されることがあるかもしれません。
 しかしそれでも混乱は無くなりそうにありません。それだけカンアオイの仲間は種の線引きが難しいのです…
 
(これだけ多様ということは、カンアオイの仲間はまだ進化の途中なのかもしれませんね)

 ですが、これだけややこしいということは逆に、まだまだ研究の余地があり、それだけ面白い分野だともいえます。
 趣味としても、種数が多ければ集めるのが楽しくなりますし、変異幅が広ければ同一種だけを集めても楽しめます。
 それに、カンアオイの仲間は一見地味な植物ですが、きれいな葉模様を楽しんでも良し、個性的な花を楽しんでも良しの、
 隠れたスーパー園芸植物なんです。
 ですから皆さんにお勧めします。カンアオイは面白いですよ!ハマってしまいます…
 現に当サイト管理者「ハナポン」は、全く興味を持っていなかった人にカンアオイを勧め、その結果カンアオイにハマった
 人を何人も作っていますよ。(特にラン好き・食虫好き・多肉好きは… ハマル可能性大!)


和歌山産ヒメカンアオイ 2月開花 三重産ヒメカンアオイ 2月開花 和歌山産ヒメカンアオイ 3月開花 三重産ヒメカンアオイ 10月開花
和歌山産ヒメカンアオイ 2月開花 三重産ヒメカンアオイ 2月開花 和歌山産ヒメカンアオイ 3月開花 三重産ヒメカンアオイ 10月開花



以上、わかりにくい説明を長々とすみません。カンアオイの魅力が半減していなければいいのですが…。
もし、少しでも「カンアオイの仲間」に興味を持っていただけたのなら、ぜひ「カンアオイの仲間」を育ててみてください。
魅力てんこ盛りですよ!


アツミカンアオイ イズミカンアオイ ウスバサイシン ウズラバカンアオイ オナガカンアオイ オモロカンアオイ キナンカンアオイ

コシノカンアオイ タニムラカンアオイ フタバアオイ


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